他害を防ぐ!子供の「怒り」を上手くコントロールするには?
公認心理師*やまおさん
2025/01/08
はじめに
子育て支援の仕事をしていると、保護者の方や先生方から、子どもの感情コントロールについて、よく質問を受けます。
それだけ、困っている方がたくさんいらっしゃるテーマであると言えるでしょう。ただ、このテーマに関して相談にのっていると、気になる部分があるのも事実です。
そこで、感情をコントロールするということについて、簡単に整理した上で、子どもたちが自分で感情をコントロールしやすくなるためには、
大人にはどんな関わりが求められているのかについて、伝えていきたいと思います。
感情を抱くことは良いこと
当たり前のことですが、感情を抱くこと自体は、とても良いことです。何らかの理由で精神的な負荷がかかりすぎると、
人間は無感情のようになってしまうことがあることを考えると、感情が豊かなことは健康であることの証の一つと言えます。
感情の中で、喜怒哀楽で言えば、「喜」と「楽」に関しては、多くの人が肯定的に捉えますし、子どもがそういう感情を見せている時には、「素直でかわいいね」と褒めてくれるでしょう。
一方で「怒」と「哀」に関しては、評価が分かれがちです。私が疑問に思うのは、子どもが「怒」とか「哀」等の感情を抱くこと自体に否定的な大人の方もいるからです。
心理士として相談を受ける中で「子どもはニコニコしておけば良い」、「子どもだから怒ってはいけない」、「子どもに哀しい思いをさせてはいけない」という思いが強すぎる方がいらっしゃいます。
これは子どもを見くびっているとも言えますし、子どもを大人の都合の良いようにコントロールしようとしているようにも感じます。
どんな小さい子どもでも、喜怒哀楽に限らず、多様な感情を抱きます。そして、それはとても素晴らしいことです。
感情があるからこそ、一喜一憂したりして、人生の彩が豊かになると言えるでしょう。
子どもが怒ったり、悲しんでいる時には、「腹が立ったよね」「悲しいよね」と共感してあげた上で、「そう思えるのはとても良いことなんだよ」と伝えてあげてください。
感情を抑圧する必要はないのです。
大切なのは表現方法
どんな感情を抱こうとそれは各自の自由ですし、色々な感情を抱くことは素晴らしいことです。
それでは、なぜ子どもが「怒」と「哀」などの感情を抱くことに対して、大人が否定的になってしまうかと言うと、それらの感情の表現方法が良くないことが多いからです。
相談に来られる方たちも、「うちの子は、すぐに怒ってしまって」とおっしゃいますが、よくよく話を聞いていると、
怒りの感情をうまく表現できていないというところに問題があることがほとんどです。
「友だちが嫌なことを言ってきて、すごく嫌だった」と大人に言えたら、それは素晴らしいことですが、何も言わずに友だちに暴力を振るってしまったり、
物に当たったりするので、問題になってしまいます。
まずは、大人側が、大切なのは表現方法であるというところを押さえておきましょう。
私が子ども達によく話すのは、「殴ってやりたいと思うほど腹が立つのは悪くない」「でも、殴ってしまったら、それはあなたが悪くなる」「殴らなくても、悪口を言い返してしまったら、それも言葉の暴力であなたが悪くなる」「あなたが悪くならない表現方法が必ずあるから、それを一緒に見つけよう」ということです。
感情をコントロールするためには言葉が必要
感情をコントロールするためには、まずは、自分がどんな感情を抱いているのかを理解しなければいけません。
周囲の大人が「今、怒ってるみたいだけど、どうしたの?」「悲しそうだけど、大丈夫?」「嬉しそうだね、いいことあった?」等、
あなたは今こんな感情を抱いているよ(少なくとも周囲にはそう見えている)ということを、言語化してフィードバックしてあげましょう。
自分の感情なんだから自分では理解できているはずと思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、心理士として現場で働いていると、感情をコントロールするのが苦手な子どもの中には、この段階で躓いている子どもがけっこういるように思います。
嬉しいことがあっても嫌なことがあっても「やばい」としか言わない子、何があっても「だるい」で済ませる子、こういう子どもたちは感情をコントロールするのが苦手です。
こういう子たちに話を聞いていくと、成育歴の中で、大人からの声かけが圧倒的に不足していることが多いのです。
感情の表現方法を具体的に教えてあげる
感情を抱くことは自由であるが、その表現方法次第ではその行動は、良くも悪くもなります。
感情をコントロールするのが苦手な子どもたちに対しては、具体的にどういう表現方法を取るのが望ましいのかを教えてあげる必要があります。
もっとも望ましいのは、感情や思いを言語化して、信頼できる相手に、守られた空間で話をすることです。
「嫌なことがあったら相談しましょう」だけでは、面識のほとんどない人に自分の深い悩みを話してしまったり、
大勢の人がいるところで自分のプライベートな話をして失敗してしまう子どもがいます。
高ぶった感情をおさめるのに時間がかかる子どもには、クールダウンの方法について、一緒に考えてあげることが必要です。
感情が高ぶってから「どうする?」と決めることはできないので、落ち着いている時に「もし、イライラして気持ちがおさまらなかったらどうする?」と決めておくことが必要です。
これも、言語化と同じで、どういう場所で何をするかを決めておいてあげることが大切です。
大人がよくやってしまうミスが「落ち着きなさい」という声かけです。これは、具体性が欠けた声かけで、子どもはどうしたら良いのか分かりません。
「落ち着きなさい」と言っている大人が怒っていたりして、落ち着いていないと、子どもとしてはますますどうしたら良いのかわからなくなってしまいます。
さいごに
多くの人は、自分の感情を完全にコントロールすることはできませんし、それが人間として自然なあり方と言えるのではないでしょうか。
だからと言って、感情に振り回されれば良いというわけでもありません。
自分も周りも、安全で安心して生活するためには、感情をコントロールしようという意識を持つことが必要です。
そして、子ども達に感情をコントロールすることを学んでもらうためには、子どもの周囲の大人が、子どもにとってモデルとなっているかどうかは、非常に大切なことです。
腹が立った時に、大人が周囲の人(家族やお店の人等)に当たり散らしたり、物に当たったりしているのを見れば、子どもは、それで良いのだと学習します。
一方で、大人が気持ちを落ち着かせている様子を見せれば、それもまた子どもは学習します。自分は子どもにとって良いモデルとなっているのか、今一度考えてみてはいかがでしょうか。
また、ご自身が思い詰められているときなどには一人で抱え込まず、周囲の人に相談したり、専門家に相談するのも一つの手段です。
自治体の保健センターや子育て支援センターの心理士などもいます。
ひとりで抱え込んで我慢せずに、周囲を頼ってみてくださいね。
公認心理師*やまおさん
経歴:臨床心理士、公認心理師
児童福祉の分野で心理士をしています(20年以上)。発達障害児への心理教育や、虐待被害を受けた児童への心理ケア等を担当しています。